遊泳する言葉

言葉が追いつけないものがある。言葉に追いつけないものがある。だから言葉を追いかける……

雛の手紙 

早いのか遅いのかわからないけれど、今頃になってお雛様を出している。今年は寒すぎる冬で、いつまでも春の気配が感じられなかったこともある。やれ正月だ、やれ節分だと、季節の推移が早すぎて追いつけなかったこともある。なんだかんだと理由づけしてしまうが、つまるところ時間や季節の感覚に鈍感になったということだろう。最近は季節を後から追いかけていることが多い。それに、行き遅れて心配な娘もいなくなったので、売れ残...
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どこかで川が流れている 

子どもの頃、大きな木には神様が宿っていると聞かされた。木肌に耳をつけると、神様の声が聞こえるという。そのようにして、いちどだけ神様の声を聞いたことがある。言葉はわからない。ただ川が流れるような音だった。いまでも夜中にふと目覚めたとき、川が流れるような水音を聞くことがある。子どもの頃の古い感覚が耳元にもどってくる。神様ではないかも知れないが、ぼくを超えたものの存在の、音にならない音、言葉にならない言...
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星へ還ってゆく 

いままでに見た一番きれいな星は、標高1800メートルの山頂で見た星空だった。きれいというよりも、すごいと言った方がいいかもしれない。星が幾重にも重なって輝く壁のようだった。手を伸ばせば触れることができそうで、それでいて無限に遠く澄み渡っているのだった。星ではない何か、空を覆いつくしているもの、空そのもの。昼でもない夜でもない、もうひとつの、はじめて見る空だった。夜に向かって山に登るな、という登山の...
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恋も時計も多い方がいい  

だいぶ以前に、ネット広告で「恋も時計も多い方がいい」というキャッチコピーを目にして、思わずクリックしてしまったことがある。置時計、壁時計など、家の中に時計はたくさんある。だが、恋と時計となれば腕時計ではなかろうか。街角で、喫茶店で、腕時計を気にしながらどきどきする。古い映画のようなシーンを想像してしまった。ぼくは腕時計を2個持っているが、最近はほとんど腕にはめたことがない。ぼくの時計が時を刻むのを...
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小さな季節の明かり  

蝋梅(ロウバイ)の花が咲いている。黄色い、蝋細工のような半透明の花が、冬枯れの野に、小さな明かりが点ったみたいに咲いている。近寄ると、どこか深いところから微かな香りもしてくる。まだ見えない、遠い春とつながっているようだ。まだまだ冬の寒さは厳しい。そんなに早くに咲いて大丈夫(?)と思ってしまう。英名ではウィンタースィートというらしい。冬の花だ。雪や霜なんかには負けなさそうな、しっかりした花のかたちを...
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恋する水鳥たち 

近くの池で、水鳥がひときわ変わった泳ぎをしていることがある。2羽で追いかけっこをしている。それも、どちらが追いかけて、どちらが追いかけられているのか判らない。ぐるぐるとコマが回っているような円を描いている。その動きは激しくて、池のその部分だけが沸騰しているようにみえる。水鳥が恋をしているのだと思った。雄と雌の2羽は相思相愛の仲。その円い動きが証明している。片思いであれば、どちらかが追いかけ、どちら...
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