遊泳する言葉

言葉が追いつけないものがある。言葉に追いつけないものがある。だから言葉を追いかける……

さよならの木 

秋から冬へとさよならの声にとまどう一本の木だった小さな葉っぱは小さなさよならを大きな葉っぱは大きなさよならを手の平のような葉っぱは手を振りながら失ったものを掴もうとして木は空に無数の手を伸ばすがらんどうの葉っぱの空から指の先をつたって風の声が聞こえてきた始まりはいつも小さな一本の木だったと大きな風の手で植えられた小さな木だったと物語はつづく再びのその日まで木はじっと始まりの風を待っている...
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ホントの自分 

新聞の切り抜きやメモなど、雑多なものを放り込んでいた菓子箱を整理していたら、次のようなものが見つかった。新聞の読者投稿歌壇に投稿された短歌だった。   ネットにはなんでもあると思う子ら       「ホントの自分」もそこにはあると                      (松戸市 原田 由樹)ぼくもかなりネットに依存した生活をしている。だから、そこには何でもあるような気もするし、何もないような気...
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空気は見えないけれど 

それは、宇宙から届いた巨大な隕石のようにもみえた。広大なカザフスタンの朝の雪原に、黒く焦げた宇宙船の帰還カプセル。そんな写真を夕刊で見たことがあった。運びだされた宇宙飛行士の言葉は、「息ができる空気が周りにたくさんあるのは素晴らしい」だった。そうか、息ができる空気。この地球上にはいっぱいあったんだ。あらためて思った。空気は見えない。目に見えないものは、普段はあるのかどうかもわからない。考えたことも...
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温もりの季節 

寒くなった。といっても、季節を考えると、これが本来の寒さなのだろう。やっと扇風機とストーブを入れ替えた。石油ストーブは数年前に壊れて廃品にしたので、ぼくの部屋にあるのは、遠赤外線の電気ストーブが1本だけ。この冬もこれで過ごすことになる。この電気ストーブには“ぬっくん”という名前が付いている。ある人が名付けてくれた。その言葉の温もりも加味されて、このストーブは特別に温かいような気がする。“ぬっくん”とい...
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光のやくそく 

いつかの約束をつい記憶のなかに探してしまうひとつだけ点滅する光暗い川のむこうからサインを送ってくれたのは誰だったか光はことばだった魂だった妖怪だったレコードの古いキズに立ちどまったり躓いたり麦わらみたいな乾いた空気を吸いながら吐きだすときはみんな湿ったフルートだったね夕焼けと枯葉の道背中の風がどんどん冷えていまは痩せた背骨にも届かないんだ光に魂があるならば瞬きするものにも言葉があるかもしれない小さ...
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秋の葉書 

とおい歳月の向こうから1枚の葉書が届いたまだ文字を知らなかった3歳の娘がいつか手紙のまねごとで落書きしたものだったこの秋古い机の引き出しからそれは枯葉のように手元におちてきた文字にならない文字いつか読み解くかもしれない誰かのために言葉は遅れてやってくるようだつぶやきのまま文字にならなかった文字を言葉にならなかった言葉をいまだ私は文字にできないけれど言葉にもできないけれどその葉書をふたたび引き出しの...
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