遊泳する言葉

言葉が追いつけないものがある。言葉に追いつけないものがある。だから言葉を追いかける……

杉の葉ひろいをした頃 

晩秋の風は、さまざまな記憶の匂いがする。それは乾いた枯葉の匂いかもしれないけれど、郷里の黴くさい古家へと帰ってゆく風のようだ。赤く色づいた庭の柿や山の木の実や、夕焼けに染まった空の雲や、記憶の向こうに運び去られたさまざまなものを、季節の風がまた運んでくる。田舎で育ったから、田舎の記憶がいっぱいある。風が強く吹いた翌朝、杉林のそばの道を歩いていくと、杉の葉が幾重にも重なって落ちている。いまでも、杉の...
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吾亦紅(ワレモコウ) 

学生の頃、東京ではじめて下宿した家の、ぼくの部屋には鍵がなかった。だから、ときどき2歳になるゲンちゃんという男の子が、いきなりドアを開けて飛び込んできたりする。そのたびに、気配を察した奥さんが慌ててゲンちゃんを連れ戻しにくるのだが、そのときに、いつも何気ないひと言を残していくのだった。「玄関のお花、ワレモコウっていうのよ」ぼくの部屋は玄関わきにあったので、ドアを開けると下駄箱の上の花が正面に見えた...
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葉っぱの国はうつくしい 

この日頃の、ぼくの行動はすこしばかり、あぶないおじさんに見られているかもしれない。ひたすら地面を見つめながら歩き、ときどき何かを拾っている。とてもいいものでも拾ったような様子から、おカネか宝石でも拾ったにちがいない、と思われているだろう。そんなとき、近くを通りかかった人は、なにか、ええもんでも落ちてまっか? と言いながら、ぼくの手の中を覗こうとする。はいどうぞと開いた手の中には、数枚の落葉があるだ...
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赤い実を食べたら 

いつも通る池沿いの道の、土手の一角を赤く染めて、小さな赤い実が群がってなっている。きょねんの今ごろも、同じ木の、同じ赤い実のことを書いたら、そのときは名前を知らなかったのだが、ある人からピラカンサスだと教えられ、それからぼくは、この赤い実のなる木の名前を覚えた。たしか、炎と棘がこの木のキーワードだったと記憶している。ピラカンサスの赤い実は、熱く燃えて突き刺さってくるのだ。ああ、あれから1年がたった...
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きょうは空まで掃くのだ! 

早朝の空の高いところでは、いつも季節がすこし先を進んでいるようにみえる。そこではもう冬の冷たい風が吹いていて、薄い雲が布のように流されている。それは、誰かが箒で掃いたあとのようにもみえる。おでかけですかー?と空から声が降ってくる。掃いていたのは、レレレのおじさんだったようだ。今日ははりきって空まで掃除している。バカボンのパパなら、「お出かけじゃない、帰ってきたところだ」と怒鳴るところかもしれない。...
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この電車はどこへ行きますか 

このところ、電車の夢をよくみる。どこかへ行こうとして乗るのだが、その電車は見慣れない駅に止まって、その先にはもう走らない。仕方なく電車を降りて歩き始めるのだが、街の様子も風景もはじめて目にするものばかりで、どこを歩いているのか、どこへ行こうとしているのかも分からない。それでも歩き続けている。目が覚めると、歩き疲れたという疲労感だけが残っている。まったく割りの合わない夢だ。夢が日常の生活や精神状態を...
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