遊泳する言葉

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線路は続くよ

……ぼくはその数日間、毎日あてもなく近くの山を歩き回っていた。春がすみに覆われた周りの風景は、いくぶん現実感を喪失したようにぼんやりとして単調だった。遠近感が曖昧になった視界のいちばん遠いところに、突起のように阿蘇の根子岳や中岳があり、立ちのぼるやわらかい噴煙も雲と見分けがつかなかった。長々と横にひろがる阿蘇の外輪山を頂点として、幾重にも山々が層をなしてなだらかに下りてくる。その中を、とぎれとぎれに...

てっぽう <詩>

とっくにもう枯野の向こうに行っちまったけど俺に初めてフグを食わせてくれたのはおんじゃん*だった                       *おんじゃん=おじいちゃん唇がぴりぴりしたら言わなあかんでフグの毒がまわったゆうことやさかいになフグの味なんか俺はちっともわからなかったよまるでフグみたいに喋るまえに口をぱくぱくするおんじゃんの言葉は財布といっしょでいつも腹巻のどんづまりに入っていたんだ言葉が出...

トリノの狼

イタリアといえばオー・ソレ・ミオや太陽がいっぱい、真っ青な地中海にぎらぎらと太陽が降りそそぐ、そんな暑くて燃えるイメージだったのですが、この数日は、白い恋人たちが乱舞するテレビ映像を観ながら、イタリアにも雪が降るんだ、などと脳天気になっているところです。考えてみれば冬のオリンピックだもの、雪と氷がなくてどうするねん。スパゲティやピザなどのイタめし系が好物なぼくは、近くのイタリアンカーニバルというレ...

なべなべ

ずっと気になっているわらべ唄がありました。    なべなべ がちゃがちゃ    そこがぬけたら かえりましょうなぜか、鍋があり、鍋はとつぜん底が抜けてしまうのです。楽しい遊びがとつぜん中断されて、子どもたちはそれぞれの家に帰ってゆく。そんな遠い日の懐かしい光景が浮かんできます。東京荻窪で自炊をしていた学生の頃、ぼくの手元に鍋といえるものはフライパンがひとつあるきりでした。目玉焼きも野菜炒めも、そし...

あなた と わたし <詩>

ある日あなたが現われてわたしはあなたのわたしになりあなたはわたしのあなたになるあなただけのわたしわたしだけのあなた重なり合うあなたとわたしわたしの中に入ってくるあなたあなたの中に入ってゆくわたしあなたはわたしわたしはあなたとうとう あなたばかりになってひとつになったと錯覚するでも やはりあなたはわたしのものではなくわたしもあなたのものではないくっついたり離れたりひとつになったり ふたつになったりあ...