遊泳する言葉

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風のことば

西へとみじかい眠りを繋ぎながら渦潮の海をわたって風のくにへ海の向こうで山はいつも寝そべっている近づくとつぎつぎに隠れてしまう活火山は豊かな鋭角で休火山はやさしい放物線で古い指がまたなぞってしまう空は雲のためにあった夏の一日をかけて雲はひたすら膨らみつづけやがて空になった風のくにでは生者よりも死者のほうが多い父の墓は変わらずに山のてっぺんにあった迎え火を焚いて家の中が賑やかになる父の女はまだ生きてい...

風の言葉が見つからない

2週間ぶりにパソコンを開いたら、1676通のスパムメールでボックスはいっぱいに。メールタイトルの言葉は、いずれも親しげで優しい。言葉に飢えているので、ついクリックしたくなってしまう。だが、歓迎されるものは1通もない。どんなに親しげで優しくとも、それらはただの言葉にすぎない。久しくネットから離れていたので、液晶の言葉が新鮮にみえる。言葉ばかりが溢れだしてくる。これらの言葉のどれだけが、こころから出て...

夏休み

今日から2週間ほど夏休みします母がひとりで住む九州に帰ってきます水と空気しかありませんパソコンもケータイもありません階段にはたぶん大きな蜘蛛がいます誰も上がらない2階は蜘蛛の巣だらけでしょう蜘蛛のネットはどこへも繋がりませんひたすら風と交信します風のくにでは生きてる人よりも死んだ人の方が多いです山のてっぺんに父の墓があります知らない先祖の墓もたくさんあります墓地から阿蘇の噴煙が見えますときおり少年...

原始人の夏

耳を立ててとおくの雷鳴を聞いている虹の匂いを嗅いでいる夏はどこからかぼく等の原始人が現われる川は流れつづけているので終日ぼく等は瀬にさからって泳いだ唇まで冷えきったら岸へ上がる縮んでしまった青い唐辛子のぼく等原始人だけが毛が生えている首がみじかくて猫背おなかと背中の肉が重そうで歩くのも泳ぐのも鈍いぼく等よりも大きくて不恰好なものそれが原始人の定義だった彼はときどき血痰を吐いたあるいは歯ぐきを病んで...