遊泳する言葉

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水の色

雨があたたかいと感じる季節。そんな雨が降ったあとは、池の水の色もやわらぐ。このまま春になるかと思っていると、そうはさせじと冷たい風が戻ってくる。いちだんと冷え込んだ朝、近くの池で水鳥が奇妙な行動をしていた。群がって円を描くように泳いでいる。池のあちこちで大小の円ができ、渦の中心からは熱気さえ発しているようだ。寒さしのぎに、おしくらまんじゅうでもしているのだろうか。子どもの頃、寒いときなどよく、体を...

星への生還

いままでに見た一番きれいな星は、標高1800メートルの山頂で見た星空だった。きれいというよりも、すごいと言った方がいいかもしれない。星が幾重にも重なっていた。その澄みきった輝きは、目に突き刺さってくるようだった。星ではない何か、空を覆いつくしているもの、空そのもの。昼でもない夜でもない、もうひとつの、はじめて見る空だった。夜に向かって山に登るな、という登山の鉄則は知っていた。だが、当てにしていた麓...

川が流れている

子どもの頃、大きな木には神様が住んでいると聞かされた。木肌に耳をつけると、神様の声が聞こえるという。そのようにして、いちどだけ神様の声を聞いたことがある。言葉はわからない。ただ川が流れるような音だった。いまでも夜中にとつぜん、川が流れるような水音を聞くことがある。子どもの頃の古い感覚が戻ってくる。神様ではないかも知れないが、ぼくを超えたものの存在の、音にならない音、言葉にならない言葉に、つい耳をす...

季節の明かり

蝋梅(ロウバイ)の花が咲いている。黄色い、蝋細工のような半透明の花が、冬枯れの野に、小さな明かりが点ったみたいに咲いている。近寄ると、どこか深いところから微かな香りもしてくる。まだ見えない、遠い春とつながっているようだ。まだまだ冬の寒さは厳しい。そんなに早くに咲いて大丈夫(?)と思ってしまう。英名ではウィンタースィートというらしい。冬の花だ。雪や霜なんかには負けなさそうな、しっかりした花のかたちを...