遊泳する言葉

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欠けても満ちる

現代の知識がなかったらどうだろう。太陽がだんだんと欠けて暗くなったら、このまま宇宙がなくなってしまうと思ったかもしれない。ある種の動物たちは、そんな思いで巣へと立ち返ったのだろう。われわれは、太陽がなくなっても、ふたたび元に戻ることを知っている。だから、わくわくしながらこの珍しい現象を見つめることができる。だが、そのとき雲が厚すぎた。近くの高校の日食観察会に参加した。簡易な太陽観察シートと地学教室...

トンボの空

夏は、空から始まる。もはや太陽の光を遮るものもない。真っ青な空だけがある。草の上を、風のはざまを、キラキラと光るものがある。トンボの翅だ。無数の薄いガラス片のように輝いている。少年のこころが奮い立った夏。トンボを殺すことが、なぜあんなに歓喜だったのかわからなかった。置き去りにしていたものを、ふと取りに戻ってみたくなる時がある。もはや少年の日には帰れない。けれども古い荷物を、駅の待合室かどこかに置き...

(続)アナログからデジタルへ

パソコンと向きあう日々は、デジタルな生活だと思っていた。なのに、ぼくのパソコンのテレビが、なぜ「アナログ」なのか。どうも合点がゆかない。完璧なデジタルマシンの箱を、アナログの電波はどうやってすり抜けているのか。デジカメで撮った写真は、本当にデジタルなのか。ぼくのデジタル真相究明は、なおも続くことになった。ネットにはさまざまな知恵が落ちている。パソコンのテレビの「アナログ」表示を「デジタル」表示にす...

山が近くなる日

いまの季節、空を仰ぐことが多い。雨の気配が気になる。雨は嫌いではないが濡れたくない。しかし、空気が適度に湿っているのは好きだ。雨上がりの道を、カメやザリガニが這っていたりする。生き物の境界がなくなって、ひとも簡単に水に棲めそうな気がする。なにか原始の匂いが漂う。いつも眺める山が、きょうは近い。そんな日は雨が降る、と祖父がよく言っていた。たぶん大気中の水蒸気が密になって、レンズのような役割をするのだ...