遊泳する言葉

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白い花が咲いてた

白い花が咲いてたふるさとの遠い夢の日♪…という古い歌がある。遠い夢の日に、どんな白い花が咲いていたんだろう。小学校の卒業式の日に、担任の梶原先生が『白い花の咲く頃』という歌を歌ってくれた。いかつい大きな顔をした男の先生だったけど、歌の声は低くて優しかった。ふだん怒ると顔が真っ赤になったけど、歌ってる顔も真っ赤だった。♪さよならと言ったら…と歌うとき、声がかすれていた。クラスのみんな、うつむいて泣いた。...

春の嵐

母は、九州でひとりで暮らしている。隣り合って妹夫婦が住んでいるので、なにかと母の面倒は妹がみている。昨年の春頃、母のテレビが故障して買い換えたときに、下取りに出した古いテレビの行方を、母がさかんに気にしているということだった。経緯を妹がいくど説明しても、すぐにまた同じことを聞いてくると言って、妹も困り果てていた。その頃から、母の様子がおかしくなり始めたようだった。古いテレビを2階の部屋に置いとけば...

はるあはれ

むかし、男ありけり……で始まるのは『伊勢物語』であるが、「むかし男がゐた。」で始まるのは、室生犀星の『はるあはれ』という短編小説。「むかしといっても、五年前もむかしなら、十年前の事もむかしであった。その男はうたを作り、それを紙に書いて市で賣ってたつきの代(しろ)にかへてゐた。」という。そのうたは大してうまくはなかったが、毎日一人くらいの客はあって食うことはできたという。露天商のような、売文家のはしく...