遊泳する言葉

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夏の光

戻れそうで、戻れない記憶をたどる指のさきに、夏の光があった。光はしずくとなって、虹色の、かげろうをつくった。ゆらめいていのちのかたち。輝いて一瞬を生きている。夏の光のさきに、すきとおった羽根があった。帰れそうで、帰れない虫たちのそれぞれの夏がある。光の音階をなぞるかげろうの、指を追った。届きそうで、届かないつくづくおしい、と嘆いているつくつく法師よ。夏の光の影はみじかい。...

天界に近いところ

暑い夏だ、地上から脱出したい。日々そんな思いが強くなる。大阪で一番高いビルにのぼった。海の玄関、大阪ベイエリアにある大阪府の咲洲庁舎。その52階までエレベーターで一気に直行。さらに最上階55階のコスモタワー展望台まで、長~いエスカレーターで上がる。地上252m、360度ガラス張りの展望。大阪全域はもちろん、神戸、淡路島までが眼前にひろがった。海と空の中間から、炎暑の地上を見下ろす。少し足がすくむが...

そこには誰もいない

騒がしさの中に、静けさがある。見える声と、見えない声がある。出かける人たちや、帰ってくる人たち。生きてる人たちが遠くへ行き、死んだ人たちが近づいて来る。生きてる人と死んだ人が、見えないどこかで交錯する、夏。行ったり来たりして、人生の半分を失ったみたいだ。近しい人たちが、半分になった。ごっちゃに集まるお盆の夜は、ご詠歌と鉦のひびき。父の声は祖父にそっくり、伯父の声は父にそっくりだった。いまはもう、3...

花は忘れない

やっと、朝顔の花が咲いた。花を、忘れてはいなかったようだ。いちどに、どっと咲いたので、数えてみたら17個もあった。朝顔姫も、人を驚かすすべを知っているのかもしれない。花は見覚えのある、去年の花とおなじだ。種子が同じだから当然のことなのだろう。おなじ花を見ていると、自分もまた同じ夏をおくっているように錯覚する。あがいてもあがいても、同じものは同じで、同じことを繰り返しているのかもしれない。蝉時雨、空...