遊泳する言葉

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1969年のスキャット

いまふたたび、懐かしい歌声が街に流れている。由紀さおりの1969年のデビュー曲『夜明けのスキャット』。アメリカのジャズバンドとの共演アルバム『1969』が大ヒットしている。彼女が歌う日本語の美しさが、日本語のわからない外国人からも絶賛されているという。かつてぼくが、彼女の歌をききながら涙したのは、彼女の声と日本語の美しさのせいだったのだろうか。いや、それだけではなかった。1969年。ぼくの大阪での...

リンゴになろう

寒いから、熱い言葉に触れてみたくなる。俵万智の歌集をひらく。   愛してる   愛していない花びらの   数だけ愛があればいいのに             (『サラダ記念日』)いまは冬の花びらが、空から降ってくる。白くて小さくて冷たい。赤や黄色の気ままな絵の具で、白い花びらに彩色してみる。冬の花はすぐに溶ける。いや散ってしまう。   散るという   飛翔のかたち花びらは   ふと微笑んで枝を離れる...

光のくに

寒くて暗い冬のくにから逃げ出したら、明るい光のトンネルにたどり着いた。まばゆいほどの、煌びやかな長いトンネルを抜けても、そこもなお光、光、光、いちめんの光。大きな光、小さな光、色もさまざまに混じり合って、光が夜のくにを覆いつくしている。光の野、光の山、光の川、光の木と花と、光は点滅しながら流動し、変化する。光のなかで四季がめぐる。闇の野を染めていく虹。桜花が満開に咲き、やがて花びらが散る。緑いっぱ...

天国を泳ぐさかな

いっぴきの熱帯魚が死んだ。小さくて青い、さかなが死んだ。たかがさかな、されどさかな……と、その熱帯魚の世話をしていた、やさしいひとの悲嘆は大きかった。そのひとは、ぼくの魂の友であり、言葉の友であり、詩の友でもある大切なひと。その日はずっと涙にくれていたという。だけど詩を書くことができたから、悲しみを軽くすることができたという。小さな命を失った大きな悲しみを、涙と言葉にかえて癒すことができたという。そ...