遊泳する言葉

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光と影の博士

2012年5月21日その朝、空にはいつもとちがう太陽があった。丸い光はだんだんと欠けてゆき、その欠けた部分を包み込んで、やがて太陽は美しい光の輪となった。すこし暗くなり、すこし寒くなった。そして、まわりが静かになった。足元の草の上に、ぼくの影が弱々しく落ちている。その草をかき分けて、黒いメガネをかけた虫博士が這い出してきた。なにかが足りない、なにかが過剰だ……。小さな草履のような虫博士が、丸くなって...

水の魂

その土地は、水が豊富だ。名水の里とも呼ばれている。いたるところに湧き水があり、山から谷へと澄んだ水が流れくだり、川は豊かな水量を集めている。だが、そこから少し山奥へと入ったところでは、昔から水争いが絶えなかったという。この場合の水とは、もちろん飲み水ではなく、米を耕作するための水だった。のどかで平和な風景の向こうに、もうひとつの信じられない風景が重なってみえる。写真は、円形分水と呼ばれているもの。...

活火山

久しぶりに阿蘇にのぼった。帰省するたびに、いつも遠くから噴煙ばかり眺めていた。活動する山がそこにある。そのことが、いつか会いに行かなければならない古い友人が、そこにいるようなのだった。ずっと気がかりだった。初めて登ったのは、小学生のときの遠足だった。すこし怖い山だった。火口近くになると硫黄の匂いが強かった。何人かが倒れた。慣れない登山の疲労で倒れたのだと思っていたが、噴煙に含まれるガスのせいだった...

五月の風は輝いて

土の兜というものを初めてみた。九州の妹の夫は陶芸家だ。陶人はさまざまな器を土でつくる。灼熱の火に焼かれて、土は人がイメージする形になる。大きな一個の器を伏せた形。そこから土の兜はうまれたようだ。まるで太古の土から掘り出された土器のように、土のもつ渋い輝きと、素朴な原始の匂いがただよっている。古色を帯びて、落ちついた荒々しさがある。鉄のような輝きはない。鋭さもない。しかし、土の温もりと鈍重さがある。...