遊泳する言葉

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鞦韆(ぶらんこ)

古い家の梁にロープを掛けただけの私の特製ぶらんこゆらゆら揺れているのが好きだった目をつぶるとぶらんこの旅がはじまる家ごとゆらゆら揺れて私は遠いところまで行ってしまうときどき私を静止しようとする母の声がきこえるそんなにゆらゆらしたらこの家が潰れてしまう、と。いまも庭の欅は揺れているだろうか古いぶらんこは揺れているだろうか今は母がひとりその家に住んでいるおまえのせいで家がゆらゆら揺れているよわたしはも...

つくつくぼうし

逃げていくキラキラ水際から雲の先っちょまで白い捕虫網をもって追いかけたぼくの夏やすみめくるめく透きとおった羽から羽声から声の甲高い呪文にぼくは敗けてばかりシュクダイ シュクダイセミが急き立てるので焦っているぼくの夏休み日記河原のオリンピックが忙しかった棒高跳びに三段跳び砲丸投げに蛙泳ぎと犬かき競泳飛び込みで頭を切った赤い血のメダルはそれだけノートは透明 どこまでも青空オシマイ オシマイシュクシュク...

虫の季節

土の匂いがした草の匂いがした木の匂いがした日陰ばかり歩いていたら人間も虫になった鳴くこともできず飛ぶこともできず交尾の仕方もわからずそれでも人間は虫になれた虫の一生はひと夏よりも短いいのちの味は甘美だったひたすら太陽のしずくを吸った風に羽を奪われると虫たちはついと死んだ生き残ったのは虫になった人間ばかりだなつかしい風の匂いがしたやっと我にかえり必死で脱皮しようともがいた...

のちのおもひに、五七五

ひとよ人ふるさとの木よあおい実よ祝祭に幾とせ耐えて灰のふる窓辺にて蛾を追う手つき心とは噛みすてる弱いこころを苦くして風吹くな小さきけもの思ふとき流れ藻にふたつの影をからませて混濁に身を振り捨ててひかる魚*「彼は頬をなでる夏のそよかぜを、或る時にはハナビラのやうに撫でるそれを、睡りながら頬のうへに捉へて、その一すぢづつの区別を見きはめることを怠らなかった」(室生犀星『我が愛する詩人の伝記』より)。そ...

夏の生きもの

暑い……なにか書こうとするが、暑い…という言葉しか浮かんでこない。こんなときの思考は、もうその先へは進みそうにない。ぼくの部屋には、涼しいものは扇風機と団扇と水しかない。それと、ぴょんぴょん跳ねる小さな蜘蛛が1匹いる。日中は風がよく通る。天然クーラーがフル稼働してくれる。それでなんとか酷暑も生き延びている。設定温度は風まかせの30度から33度くらい、それ以下に下がることは滅多にない。なので、暑さには...

空の淵より、五七五

追憶の夏は幾重に折りたたまん遠花火ひとつふたつと過去があり朱に染まり空を制覇すきみとぼく抜け殻が抜け殻を生み夢さめぬこの道ぞ生死を超えて赤とんぼ夏草の炎のさきへ泳ぎつく憧憬の空の淵より潜行す*その日、日本列島の西の果てを、ふたつの台風が通りすぎていった。その風を受けて、空が澄み渡っていた。どこまでも深い空があり、雲もひんやりとした白さで輝いていた。くりかえし清流に向かってダイブした、いくつもの夏。...