遊泳する言葉

Archive Page

ものがたり (秋の詩集2012)

  木の物語きょうもまたあの木のてっぺんにいるあれは多分ぼくだぼくの知らないぼくがいる忘れていたのかもしれないぼくがすっかり忘れていたぼくがいるだから懐かしいぼくは手を振っただがそいつはだまって空をみつめている空には何もない木は知っているみずからを語ろうとして枝を伸ばしたことを手さぐりのその先にまだ物語の続きがあるかのように始まりはいつも小さな一本の木だった小さな手で植えられた小さな椎の木だったそ...

やまぶどう

きょう夕焼けをみていたらいきなり空があかい舌をだした空よりもずっと遠いところ飛行機にのってバスにのって橋も渡ったのにここは山ばかりなのねと少女はいったどこかの風のいいにおいがしたはじめて聞くめずらしい言葉と街の名前ぼくが知らないことを知っているだけど少女はやまぶどうを知らなかったすこし甘くてすこし酸っぱい山のけものになって啄んだり吐きだしたり口の中がむらさき色になったわらうとこわい夕焼けに染まるや...

背中の海

ずっと向こうのそのまた ずっと向こうの背中の海で泳ぐひとがいるしずかな潮がつぶやいているわたしたち泡ぶくだったのねささやかな水とたわむれていつか生まれたのね始まりの水ぎわで濡れたままの髪をしてわたしたち語り合ったかしら潮騒のようにとおい声であなたの手が水をつかむあなたの足が水をけるその水のすべてをわたしたち愛したのねふりむくとずっと向こうのそのまた ずっと向こうにわたしたちの海がそっとある...

そうしつ

雨あがりひたひたとどこかで小さな眼が光っているようだきっと虹を隠しているんだあいつらカナヘビたちすこしずつ空の時間をずらしている気をつけるんだな光っているのはカナヘビくすんでいるのもカナヘビだから失くしたものは錆びた玩具ちびた鉛筆乾電池ディスクパスワードその言葉の虹にはひかる虫が巣食ってたんだな失くしたものばかり光っているのは雨あがりカナヘビばかりひんやりとひたひたと隠しているんだな草むらだな水た...