遊泳する言葉

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あるく

いつもの道をあるくおなじ道なのに同じではない水たまりだったり砂ぼこりだったり遠かったり近かったりときには花びらの道ときには蛇の道風の道足あとばかりたどる白い道いまは団栗の道落葉の道いちまいいちまい大きかったり小さかったり掌だったり忘れ物だったりてんでにばらまかれた言づてのようで前略ぜんりゃく善悪あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。めんどな山猫の道きょうは葉っぱの絵手紙をかいて森のポストまで...

やくそく

虫たちにさよならをしたら空気がだいぶ薄くなったみたいで空が遠くなってしまったよいつか約束したねまわりがすっかり静かになったら聞こえてくるだろうかその小さな声がことばではなく指の隙間からこぼれ落ちるそんなやさしさでひろい集めてみたいけどいまは痩せた背骨にも届かないんだレコードの古いキズに立ちどまったり躓いたりドボルザークではなくボロディン麦わらみたいな乾いた空気を吸って吐きだすときはみんな湿ったフル...

小島の一日

久しぶりに海に触れた。潮のにおいと魚のにおいを、いっぱい吸い込んだ。そこが漁港だから魚のにおいがするのか、海だから魚のにおいがするのかわからないが、風の中にまで海の生き物の気配が満ちていた。そんなものの全てを、貪欲に吸い込んだ。きっと生き物のにおいに飢えていたのだろう。そこの地名は小島というが、島ではない。岬の小さな漁港だ。小さな漁船が港をうめつくしている。おりしも秋祭りで、笛や太鼓や囃子の声でひ...

姫も夏バテだったのか

姫といっても、可愛い話や艶っぽい話ではない。ぼくの場合、姫というのは朝顔姫のことだ。すなわち、ただの朝顔の花のことにすぎない。だから、大しておもしろい話ではないかもしれない。ぼくにとっても、さほどだいじな話というわけでもないが、最近これといった出来事も起きなかったから、すこしばかりは書き残しておきたいことではある。ことしの朝顔は、夏の間ほとんど開花しなかった。何年も同じ花の種を、秋の終わりに採取し...