遊泳する言葉

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香母酢(カボス)

妹からカボスが送られてきた。手紙が添えられていて、母の近況が書かれていた。「今年もカボスを収穫しましたので少しですが送ります。ふる里の味を楽しんで下さい。先日ミヤちゃんとシズカちゃんが、ばあちゃんに会いに来てくれました。いつもミヤちゃんに会いたいと言っていたのに、会うとミヤちゃんのことを認識できませんでした。眠たいと言って目を閉じてしまい、ミヤちゃんが体をさすろうとするとウルサイとばかり手を払いの...

はっぱのバッハ

ガラスの向こうで葉っぱはふるえている落ちていく歓喜にもう無音の空へは帰れないいまは永遠という響きの中へと入っていく葉っぱとバッハひらひらと風のなかで重奏するコラールリコールパラレルアパレル派遣される葉っぱのバッハ葉っぱには名前がないバッハなどと呼ばれたりもするバッハにもまだほんとの名前はなかったその生涯はたった一枚の葉っぱだったのかもしれない記憶に記憶をかさねていく風のバッハガラスの部屋ではマヌカ...

ひつじ

その小さな農場で彼女はひつじの飼育係ですひつじは26ぴきそのぜんぶの顔を見分けることができるそれが彼女のひそかな自慢です不眠症の彼女はベッドの中でひつじを数えながら眠ります夜のひつじはなぜかどれも同じ顔をしているのです気がつくといつもひつじがいっぴき足りませんなので休日は普段よりも化粧をていねいにして迷い子のひつじを探しにでかけます     (谷川俊太郎『スーパーマンその他大勢』をよむ)...

どこかに

朝の地球がいっぱいの落葉にまみれているどんな風が空を吹き抜けていったのか誰かと誰かいっぱいの誰かひともものもどこからか来てどこかへと去って夢のかけらのように残されたのは落葉と雲ばかりだが覆された宝石のような朝千々にくだけた朝は美しいみんなどこへ行ってしまったのかきっとどこかにいい国があるんだ美しいくにの美しいひとたちと質素な暮らしをたのしむすこしばかりの食料と水とおっぱいとたどたどしいことばをだい...