遊泳する言葉

Archive Page

明日のこころだ

今頃になって、風邪をひいてしまった。久しぶりの風邪なので、体が風邪に慣れていない。鼻水と咳が止まらない。新聞を読もうとすると涙が止まらない。体のどこから、そんなに水が湧き出てくるのかと不思議なくらいだ。それでも、横になっていると鼻水も咳もおさまる。まるでペットボトルにでもなったみたいだ。いや、すこし違うかな。頭に靄がかかっているので、まともな思考ができていない。楽な方がいいので、一日じゅう横になっ...

森のなかへ

ウォーキングのコースを、とつぜん今朝は変えたくなった。いつもより暖かい、日差しと風のせいだったかもしれない。冬の間ずっと遠ざかっていた森のコースを、きゅうに通り抜けてみたくなったのだった。そこが森といえるかどうかは曖昧だが、ぼくにとっては森ということになっている。トチノキやサワグルミの背の高い大きな木があり、もうすぐ花をつけるヤマザクラやミヤマツツジ、ヤマボウシの木もある。他にも知らない木もあるし...

でんわばんごう

もしもしもしもし住むところをいくども変わったので電話番号もいくども変わったとつぜん電話番号をたずねられると一瞬とまどってしまう0でもなかったし9でもなかった古い番号と新しい番号いくども変わったそのように生きてきた自分をそのように探している自分がいるどこかでベルがなっているもういちどおかけなおしください...

春愁

もうひとつの冬へ帰る小鳥は脚に小さな赤いリボンをつけて少年の手を飛びたつ椿の木から木蓮の木へためらいもなく羽はうつり空の色に吸い込まれて消えた手のひらに残る小さな心臓の温もりと鼓動饒舌だった庭がいまさみしさで震えている椿よ木蓮よ木よはやく赤いリボンをつけろそして舞いあがれ空へさみしさの羽にもういちど触れてこい...

春のかおり

空に、小さな灯を点していったのは誰だろう。ことしも蝋梅(ろうばい)の花が咲いている。明るい花だ。まだ厳しい寒さは続いているが、そんなことはものともしない、しっかりとした蝋細工のような花のかたち。それでいて、香りは控えめでやわらかい。冬枯れの野で、そこだけに春が届いていて、小さな明かりを灯して、ほんとの春が来るのを待っている。そんな花だ。久しぶりに、小説というものを読んだ。江国香織の短編集。洗練され...