遊泳する言葉

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もうひとつの川があった

目をつぶると、ひと筋の川が流れている……という書き出しで、回想録を書いたことがある。ひとつの川のある風景は、ぼくの記憶の原風景でもある。「目をつぶると、ひと筋の川が流れている。夢の中でも夢の外でも、その流れはいつも変わらない。私はときどき、魚になっている夢をみた。川の水を、空気のように吸い込みながら泳いでいる。ひんやりとした水苔の匂いが胸いっぱいに満ちてくる。体が流れているような、漂っているような浮...

オニヤンマの夏がやってきた

夏の朝だ。いつもの、いつかの夏の朝だ。ことし初めての朝顔の花が咲いた。また騒がしいクマゼミが鳴きはじめた。澄みきった青い空、ふんわりした白い雲。いつもの、いつかの夏が始まった。だが、そう思うのは勝手な思い込みかもしれない。けさ花開いた朝顔の花は、初めての夏の朝の光を知ったのだ。今朝のセミはやっと地上に這い出して、初めての夏の朝の風を知ったのだ。花は細い蔓のさきに、初めて自分の色を浮かべ、虫は初めて...

雨が降りつづいている

もう止まないかもしれないそんな雨が降りつづいている街も道路も車も人もみんな水浸しになっているほんとに誰かが大きなバケツの水をぶちまけたのだろうか梅雨の終わりの最後には雨の神さまがバケツを空っぽにして騒ぐんやそう言ってた祖母はいまや雨よりも高いところにいてぶちまけた水で溺れそうになった父もすでに雨の向こうへ行ってしまった裏には山があり前には川がある年老いた母はひとりぼっちで泣いているかもしれない家財...