遊泳する言葉

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朝顔が咲いている

けさも朝顔が咲いている。おはようっと口を開いたような花が、風に揺らいでいる。すこし涼しくなったような気がする。いつのまにか、騒がしかったクマゼミの鳴き声も聞かれなくなっている。音も大気も遠くまで澄み渡ってきて、空っぽな空間が広がったような心もとなさがある。真夏の大気がねばねばとした粘液質だったとしたら、このところの大気はすこしさらさらとしている。隙間だらけになったようだ。その隙間を埋めるものが見当...

秋の魚あはれ

木の葉が風に散っていく表になり裏になり葉脈の流れをとめて秋の波紋がひろがっていくセコと呼ばれる河童が山へと帰っていく季節だった雨が降ったあとの小さな水たまりが河童の目ん玉でいっぱいだったその道を山から川へと帰っていく人もいたその人は一枚の葉っぱが魚に変身するのを見たという美しい魚だったエノキの葉っぱが魚になったのでエノハと名付けられた水が激しく落ちこむ瀬に大きく竿を振って瀬虫を放りこむ手元にぐぐっ...

夏の魚となって

コップのなかに残された朝と醒めきらないままの水を分けあう魚のかたちをして水がうごく夏のはじまりゆっくり水際を泳いでゆこうとする小さな魚だ草となりただ草となるそれだけの夏があることを魚は知らない水となりただ水となっていくつも水紋をひろげやわらかい鰭で夏の回想を重ねていくそして魚は水の雲を砕こうとして空にはじける一瞬の夏を残して...

夏の少年はどこへ

窓を開けると蝉の嵐がどっとなだれ込んできた熱風のかたまりを大きな捕虫網ですくい取るいっぴきの夏を追いかけたまま少年の夢はなかなか覚めない布切れで父が細長い袋を作った針金で竹の棒に括りつけてそれで蝉をとるのだと言った父について林に入るアブラゼミクマゼミミンミンゼミヒグラシまさに一網打尽の蝉だらけの夏になったあれからあのいっぱいの夏をどうしたのだったか父と蝉とりをしたのはそれいちどきりだ父の趣味は魚釣...