遊泳する言葉

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風の中をあるく

  風の中をあるく     (『山頭火版画句集』秋山 巌)この道しかない「けふもいちにち風をあるいてきた」ひとは揺れている雑草のふるつくふうふうだった音は声となり形は姿となり匂いは香りとなり色は光となるように風景は風光とならなければならないと山頭火は日記に書いた風を追って「風の明暗をたどる」明と暗を光と影を版画家はいちまいの板に探り続ける「何を求める風の中ゆく」風の姿がなかなか見えない化けものを観...

雨が降っている

  天気予報きょうは新しい空に着がえたとてもいい日になるだろう雨上がりの風が雲の影を明るくしている行ったり帰ったり道の向こうのかすんだ記憶がめくれている夕焼けをみて祖父は鎌を砥いだ祖父の祖父は刀で薪割りをしていたというもはや5%の殺意もなく父の遺品の剃刀でぼくは紙細工に熱中する雨の予報は30%だったのに雲の形をうまく切り取れなくて大切な空を濡らしてしまった*  雨の子ども雨が降っている雨が降ると私...

虫として生きる方法

  てんとう虫背中に負ったななつの星が重すぎて飛翔しても飛翔しても落ちるてんとう虫の小さな宇宙広くて大きなものの中であまりにも小さく生きているてんとう虫の恍惚と不安だから落ちても落ちても飛翔する宇宙の外へ飛びだしてゆく*  虫の季節草の匂いがした土の匂いがした水の匂いがした山は崩落し川は氾濫したうつむいて日陰ばかり歩いていたら虫になってしまった鳴くこともできず飛ぶこともできず交尾の仕方もわからずそ...

はじまりの木

  木の物語きょうもまたあの木のてっぺんにいるあれは多分ぼくだぼくの知らないぼくがいる忘れていたのかもしれないすっかり忘れていたぼくがいるぼくは手を振っただがそいつはだまって空をみつめている空には何もない木は知っているみずからを語ろうとして枝を伸ばしたことを手さぐりのその先にまだ物語の続きがあるかのように始まりはいつも小さな一本の木だった小さな手で植えられた小さな椎の木だったそしてぼくは木だった*...